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2009年05月20日 Wed
今夜、国の伝統構法分類委員会にて発表した「提案書」を掲載します。これを契機に議論を深めたいと思います。国交省の木造振興室長からは公開討論会を約束していただきました。
伝統構法についての共有認識事項「提案書」
(1)伝統構法で建てられた家は、地球環境に適合する
- 循環する素材である木材を使用することで、資源循環型の家づくりを可能にする。
- 伝統構法を知る職人は、木材の特性を活かし無駄の無いように使いまわすことが可能。
- 木材を使う一方、植林を進めることでCO2の削減、低炭素化社会の実現につながる。
- 大地に還る自然素材、土壁や無垢の木を使うことで、人に優しく廃棄物をつくらない。
(2)伝統構法の建物は、長寿命である
- 丈夫な木組みを駆使した架構体は、耐久性が長く長寿命である。
- 長寿命であることは、資源の浪費にならない。
- 世代を超えて住み続けられることで社会的な財産となる。
(3) 伝統構法の家は、保守管理や維持管理がしやすい
- 木材や土は手に入れやすくかつ加工しやすい素材であるため、保守管理や維持管理に優れている。
- 増改築も容易であるので、ライフステージの変化など生活や時代の変化に対応できる。
(4) 伝統構法の家は、再生・移築が可能である
- 木を組んでははずすことが出来る伝統構法の接合部は、再生可能な架構体を実現する。
- 接合部の加工が繰り返しの使用に耐えることから、建物の移築が可能である。
- 再生・移築可能な家は、資源の無駄にならず、長寿命化がはかれる。
(5) 伝統構法の家は、段階的に安全に対処する
- 応力に対して段階的に耐える構造である。基準法の地震限界では、まず土壁が初期の応力を吸収し、次に貫が建物の変形に追従し倒壊には至らない。(Eディフェンス実験より実証された)
- 変形しながらも倒壊に至らない貫は生存空間を確保することができる構法といえる。
- 貫や渡り顎など、木のめり込みを利用した粘り強さを発揮し復元力を期待できる。
- 想定外の大地震の折には、足元がずれる石場置きによって上物への入力が回避できる。(つくば実験より)
- (6)伝統構法の家づくりは、大工技術として体系化されている
- 日本全国で大工技術が体系化されていて、木取り、墨付け、刻み、組み立て、造作、仕上げまでが一連の作業として共有出来る。
- 木の個性を最大限に生かす木づくりもその技術の一部であり、経験を積んだ職人は、素材の強さや狂いも見極め、短所を長所に変える木組みが出来る。
- さらに経験をつむことで、より高度な技術を体得し次の世代に伝えることができる。
- 軸部や接合部については全国に共通した仕様が存在している。
- 時代を超えて生き残る技術は、未来につながる進化を必要とし、常に創意工夫の余地がなければならない。
(7) 伝統構法の家づくりは、地域づくりにつながる
- 全国各地の大工職が同じ継ぎ手・仕口を作ることが出来るくらい、木組みの技術は体系化されていることから、地域を越えた職人技術の交流が可能である。
- 国産材を使うことによって、産地との連携が生れ、地域の産業、人づくりにつながる。
(8) 伝統構法の家は、気候風土に根ざしている
- 地域の気候や風土によって、屋根の形や軒の出などの違いがあり、全国一律で図れるものではなく、積雪、日射、風雨などに対処するには地域ごとの工夫が必要である。
- 地域の気候風土に根ざすためにも創意工夫する余地を残すことが大切。
(9) 伝統構法の家は、美しい景観を創出する ・ 大工技術の体系の中に建物の美しさを規定する基準「匠明」や「木割書」により日本の寸法体系をつくってきた。
- 大工の口伝によっても建物の美しさなどを規定する規範を語り継いでいる。「下屋勾配は一寸返しなど・・・」
- 口伝は美しい町並みを形成する、言わずもがなの紳士協定としても存在した。飛騨高山の大工に伝わるという「相場は崩すな」など・・・
(10) 伝統構法の家づくりを実践することで、成熟した社会をつくることにつながる
- 一軒の家づくりに28職の職人が関わり、その家族が生活する糧を得ることができる。
- 道具づくりにも多くの職人が関わり、さらに社会的な広がりを持っている。
- 産地から木材を伐り出すところから、建物の完成まで地元の職人に連携が生まれる。
- 職人が育つことは、日本を支える人材育成においても優れたことといえる。
- 技術の伝承や地域の連携によって、小さな工務店や製材所などが活性化し、さらに美しい町並みが生れ、豊かで成熟した社会づくりにつながる。
以上