プロジェクトレポート
2013年05月30日 Thu
ブログ | プロジェクトレポート | 髙円寺の家 オーナー連載 | 高円寺の家
「高円寺の家」のオーナー、Kさんによる連載エッセイです。
「高円寺の家」施主
第十三話
「設計した人たちが『自分も住みたい』といった家」
今回でこの連載も最終回をむかえます。
テーマ別にして書かせていただいたので、どうしてもそこから漏れてしまうものがあります。
それで、今回は、漏れてしまった3つのことを述べさせていただきます。
最初のひとつめは、「木組みの家の電気使用の事情」です。
25年5月の電気料金の支払いは、差し引き「200円」でした。
何とも刺激的なタイトル。
これには事情があります。
この家を建てるときに、ソーラーパネルを設置する契約をしました。
どうやら、このパネルは、屋根全部ではなくて、南側の屋根にのみつけるらしいのです。
わが家は狭小で、南側の屋根は少しのスペースしかありません。
ですから、パネルは最小限のものを設置するしかありませんでした。
まだ、ソーラーパネルが未経験の方にご説明します。
パネルをつけることが決まったら、電気メーターがふたつ設置されることになります。
「買電」→電力会社から買う電気
「売電」→パネルの発電で電力会社に売る電気
毎月、東京電力の検針員の方が、2つのメーターを計ってくれます。
「買電」の方は、わたしはひとり住まいだし、昼間は仕事にでていますから、夜間のみの使用。それほどの消費量ではありません。
月で平均すると4000円程度の請求を受けます。(60アンペア契約)
問題は「売電」の方です。これはお日様の角度、日照時間に影響を受けます。
半年間のデータを示せば、
2月 1800円
4月 2500円
5月 3500円
の売り上げになったことに。
5月、6月は夏至にちかくなって、いちばん売り上げの良い時期になっているとお考えください。その上で、25年5月における、わが家の電力使用量の実態をお知らせします。
「買電」 3700円
「売電」 3500円
差し引けば、電力会社への支払いは「200円」ということになるのです。これからお日様の角度もかわって、だんだんと発電量は落ちていくものと予想されますが、ピーク時の電力事情はこうだったのです。
わたしはこれまでの12回の連載で、「木組みの家」という伝統的な工法について申し上げてきました。
でもソーラーパネルというのは現代的な機能です。「木組み」という昔ながらのやり方を踏襲しながら、そこに新しいものを導入して住宅の性能をあげていくというのは、とても現代的な伝統文化の採り入れ方だとわたしには思えるのです。
そして、ふたつ目の漏れです。
それは、どうして連載をしてまで、わたしが木組みの家を宣伝してきたのか、ということです。連載は13話つづきました。これだけでも、ただ事ではありません。
その上に、わが家での内覧会は今年8月に予定しているものを含めると完成から半年間に3度開催することになっています。まるでわたしの家は松井事務所のモデルルームの様相。連載といい、モデルルームといい、「親戚でもないのに、どうして、そんなにまでするの?」という声が聞こえてきそうです。
答はたったひとつしかありません。
わたしが「木組みの家」という伝統工法に惚れてしまったからなのです。
「こんな素敵な家をみんなに見ていただきたい」というのが、わたしの根本にあるのです。
だから、文章にしてお伝えしようとするのだし、内覧会をして実際に見ていただきたいと思ってしまう。
5月の内覧会のときには、わたしはわたしで手製のポスターを作って、玄関先に張り出したりしました。
近所の人、みなさんにこの家を見て貰いたいのです。
おもしろいのですよ。
松井事務所でわたしの家の設計を担当した方は3人なのですが、わたしが連載を書き続けた結果、この人たち全員が口々に「わたしも木組みの家に住みたい」といい始めたのです。専門家がそう口に出すようになったら、こちらのものです。
でも、設計はしているけど、実際のご自分たちは「普通」の住居にお住まいだったのですね。
木組みの家を建てるには、今、流行の新建材の建物よりちょっと高額な予算が必要となります。だから、ご自分たちは住んでいなかった。
これは逆に言えば、松井事務所が良心的な報酬でお仕事をしていたという証明にもなると受け止めることができます。
わたしには、建築の基礎知識がありません。
これまで読んでいただいた連載は、その素人が実際に家に住んで得た感想を述べたものにすぎません。
この点については、松井事務所から何の制限もなく自由に書かせていただきました。
わたしに何か間違った見解があったとすれば、巻末に松井事務所から専門的な意見がはいるという、音楽でいうと、まるでセッションをするような楽しい連載でした。
これまでわたしは、この家の持つ特異な条件をあげて、設計上で、その工夫を見てきました。
1、 狭小な立地
2、 南側に建物がある
3、 西側に窓を設定した
などです。
でもこれまでに上げていない、もっとも大きな特異点があるのです。
それはこの家が「ファミリー向け」につくられてのではなく、「おひとり様用」に建てられたということだったのです。
12年前に妻を亡くし、ひとり娘は独立して、わたしはひとり住まいです。
これから日本の社会は高齢化社会に突入して、このような「おひとり様用」住宅の需要が増すのではないかと、わたしは個人的に推測しております。
この家がこれから時代におけるモデルケースになるのではないかと、思ったりしています。
それなら人生の最後に、このような贅沢な住まいに囲まれてお暮らしになるのが良いのではないかと思ってしまうのです。
最後に、屋根裏部屋の様子をお伝えして、この連載を閉じたいと思います。
2階の寝室は「あらわし」といって、梁がむき出しだとお伝えしました。天井がないのです。
しゃれた言葉であらわしていますが、極端にいえば「屋根裏部屋」と同じなのです。
屋根裏部屋といえば、夏の暑い盛りには、ムッとする熱気に満ちているのが普通です。
この原稿を書いているのが、5月30日です。
春先から不安定だった気温は、5月20日以降、高めに推移し始めたことをご想像ください。
初夏になり始めたのです。
気候的には、℃25度が「夏日」とされています。
5月20日以降、その夏日がつづき始めたのです。
わたしの帰宅は、午後5時。
西の大窓には遮光カーテンをおろし、1階の全部の窓には防犯のために雨戸を閉じた状態の中で帰宅するのです。
5月の午後5時はまだあかるい。帰宅するとすぐに、すべての窓を開け放ち、換気扇を回すのがわたしの仕事となっています。密閉した部屋の熱気は、数分もたたず外に排出されます。
それで、2階の「屋根裏部屋」はどうかということです。
案に相違して、「熱気」はこもっていません。
これは、外壁の熱排出の仕組みに関係があるようなのです。
家にこもった熱が外壁を通して屋根に放出される工夫。
だから室内には熱気がこもらなかったのです。
これは伝統工法にはなかった機能です。こうして伝統は、新しいものを受け入れながら深化していくのです。
その仕組みは松井事務所から説明をしていただくことにして、連載のバトンをわたしから松井事務所にお渡ししたいと思います。
みなさまのご清聴に感謝いたします。
第一話、第二話、第三話、第四話、第五話、第六話、第七話、第八話、第九話、第十話、第十一話、第十二話
「松井事務所」より
「木組みの家に住んでみた感想文を、少しずつお送りします」
と、Kさんにご提案いただいてから、週に1話分づつ送られてくるレポートが楽しみでした。
あるときは光の様子を、あるときは細部のつくりを、あるときは体の変化を通じて、
木組みの家をじっくりと観察し、たのしみながら暮らしている様子が、等身大の文章で伝わってきました。
設計の意図まで汲んでいただき、つくり手としてとても光栄です。
ただ、紺屋の白袴は、致し方ありません。設計事務所ってそんなものですよ。
ともかくも、全13回の連載、お疲れ様でした。毎回の楽しいお話ありがとうござました。
これから「高円寺の家」は西側の窓に浄土寺格子を取り付けます。
西日を楽しむ家の内覧会を開催する予定です。詳細が決まり次第、当サイトでお申込みを募集いたします。
前回ゴールデンウィークで参加できなかった方も、ご期待ください。
最後に、外壁と屋根の熱排出について、解説いたします。
松井事務所のつくる建物の、外壁と屋根の中には、空気の通り道がつくってあります。これは、壁の中で結露が起きないためと外から熱気を室内に入れないための「通気工法」という工夫です。
空気は、外壁の下から屋根の上に排気されるようになっています。屋根が太陽で熱されると、屋根の中の空気は上に昇り、頂上に開けられた排気口から出て行き、その分、地面に近い壁の下の冷たい空気を吸って、壁と屋根の内部に、空気の流れをつくるのです。
この空気の流れが、屋根の断熱性能を向上させているので、夏でも2階が暑くないのだと思います。
これから夏を迎えますが、温熱環境にも工夫を凝らした木組みの家をたのしみながら、長く大切に住んでください。いつでもレポートをお待ちしています。