プロジェクトレポート
2016年04月03日 Sun
木と木を組むことで、丈夫な家ができると考えています。
木組みとは、継手や仕口と言われる木を加工した接合部から出来ています。プレカットのように金物に頼ることはありません。木のめり込みと摩擦で力を減衰するのが木組みの耐震の基本です。
木の最大の特性は、繊維に直交した方向のめり込みに強いということです。貫が柱を貫通しているのは、そのめり込みの強さを活かして建物の倒壊を防ぐためです。
貫の入った建物は大きく変形しても倒壊しないことは、阪神大震災でも実証されています。むしろ、貫の入った建物は、揺れ戻しと言われる元に戻る復元力があります。貫はやめてはいけないのです。
逆に金物に頼った建物の金物が木材を破壊して倒壊した例があります。2008年10月のEディフェンスの3階建ての建物が倒壊した実験がその例です。
昔から「針金で豆腐を釣ってはいけない」という言い方がありました。つまり木材という柔らかい母材を、鉄などの硬い金物が壊してしまうという言い方です。
木と木を組むことで、復元力を持った粘り強い建物を建ててきたのが日本の古民家です。
わたしたちは、古民家に学び、木の特性を活かした現代の家づくりを実践しています。
2016年03月29日 Tue
わたしたちのつくる家には越屋根が付いている事があります。
越屋根は、大屋根の上についた小さな屋根です。昔から古民家にはよく見かける屋根です。かまどや囲炉裏の上にあり、煙を出すためであったり、窓が開いていたりします。
この越屋根があるおかげで、室内の熱を排出したり、光をとり込んだりする役目を果たしてくれます。
風がなくても一階の床に近い窓を開けると吹き抜けを通して、室内の空気が動きます。
温度差換気でわずかな風が産まれることを「ゆらぎ」といいます。夏の風のない熱帯夜でも、風を体感出来ます。1/f「ゆらぎ」という、やんわりとした風を選ぶことができる扇風機のダイヤルもありますよね。
わたしたちは、エアコン等の機械に頼る前に、自然を利用した工夫や知恵を取り込んだ家づくりを進めています。
2016年03月21日 Mon
木材は、天然乾燥材にこだわっています。
わたしたちがつくる家は、木と木を組み上げる木組みの家です。組手と呼ばれる接合部は、一本の木から造り出した継手や仕口と言われる加工部から成り立っています。
一本の木の芯を削りだして造りますから、芯の部分が丈夫でなければいけません。
ところが、最近の木材の人工乾燥技術は進んでいますが、KD材と呼ばれる木材は、表面は割れていないのですが、強制的に乾燥するので芯の部分が割れてしまいます。
そんな人工乾燥材で木を組むと、地震や台風など大きな力がかかった時にポッキリ折れてしまいます。
一方、天然乾燥材は木材の芯が丈夫なので木組みの加工に向いています。ただし自然乾燥の際に、表面が割れることがあります。構造的な問題はないのですが、気になるところでもあります。
でも、安心してください。木の表面が割れても家が壊れることはありません。天然乾燥の木の繊維は絡み合ったままなので、二つに割れることはないのです。
なによりも天然乾燥の木は、色艶と香りが違います。年月が経てば、飴色に輝いてその違いが分かります。そこが、いつまでも木の家が愛される所以です。
わたしたちは、天然乾燥材の良さを活かして、家づくりを実践しています。
2016年03月13日 Sun
ブログ | プロジェクトレポート | 日記 | 高円寺の家
日本の伝統的な家の床下は、風通しを良くすることが常識です。床下を解放することで、湿気の多い梅雨時にも木材を乾燥させていました。
ところが現在の家のように、ベタ基礎が一般的になってその常識が覆りそうです。場合によっては、床下のコンクリートや断熱材の裏面が結露するかもしれないというのです。
床下の断熱には二通りの施工方法があります。基礎コンクリートに通気を取り、一階の床下に断熱材を入れる「床断熱」と、基礎コンクリートと土台を密閉して基礎コンクリートを断熱する「基礎断熱」です。
計測の結果、「床断熱」の結露の危険性が指摘されました。周辺環境の違いもありますが、風通しが悪いはずの「基礎断熱」のほうが危険性の少ないことが報告されました。
床下を密閉するということは、結露には不利なような方法ですが、床下が解放されている場合、湿度の高い空気が床下の冷やされた空間を通るときに露点温度に達するのです。
むしろ、床下も室内と同じように空気が通うようにして一体化すれば、床下の湿度環境はよくなるということです。さらに床下にエアコンで暖房を施せば、温熱環境も向上します。
今回、工学院大学中島研究室の石川さんが、一年を通して「高円寺の家」を計測していただいた結果です。
わたしたちは、伝統的な家づくりを実践しながら、科学的な検証もおこなって家づくりを進めています。
2016年03月07日 Mon
生まれも育ちもわかる木を使っています。履歴のはっきりした木材のトレーサビリティの実践です。
木材は、市場で他の木と混ざると産地がわからなくなってしまいますので、直接、山に注文することにしています。そのことによって、木の植林費用が還る適正な価格を山に支払うことができます。
木材の値段は、山に植える一本の苗木の植林費用から間伐、伐採費用までを逆算して決めています。直接林業家に費用を還すのが目的ですが、木材の管理もしっかりしなければなりません。
天竜(TSドライシステム協同組合)では、伐った木にその場で、バーコードを付けて伐採から出荷まで日程を追えるようにしています。一軒の家のすべての木材に育った場所と伐った時から出荷までの流れが分かる仕組みです。毎回すべての木の履歴と出荷証明書が付いてきます。
何代にもわたって大事に育てられた山の木が、市場で買いたたかれて、山に植林費用が戻らない現実を変えたいと思います。
わたしたちのつくる家は、どこで育ったのかわかる木を使い、植林することによって次世代に資源を担保し、山の保全を目指しています。
2016年02月29日 Mon
無垢の木は「強い」と言われていますが、「強い」という意味は2通りあります。
「強度」があるという意味と「腐りにくい」という意味の2つです。一本の木の中で、それぞれに受け持つ部位が違います。
無垢の木には、赤身という心材と白太という辺材がありますが、心の部分は腐りにくさを受け持ち、辺材は強度を受け持つのです。
木が成長するときは、土中の水分を根から吸い上げ、水分は幹の外輪の導管を通り、枝や葉に供給されますが、木が成長するのはこの外輪の辺材部分で、成長とともに年輪が形成されてゆきます。
年輪は柔らかい春目と固い秋目からできています。一年に一本造られますが、年輪の詰まった辺材が強度を担当するといわれています。
心の赤身の部分は、成長が止まった細胞の集まりです。木は、成長が止まるとタンニンという成分を出して役目を終えます。タンニンは、腐りにくく虫も付きにくい成分で、樹木の心を守ります。
木を輪切りにすると、年輪に表れた樹齢だけでなく、木の強さがわかります。赤い心の部分と白い辺材がその両方を分担しているのです。
わたしたちは、木の持っている強さを生かした家をつくり続けています。
2016年02月25日 Thu
ブログ | プロジェクトレポート | 深大寺の家 | 松本城のみえる家 | 佐倉の平屋
2015年に竣工した家を、3件作品集に追加しました。
http://2022test.matsui-ikuo.jp/works/
2015年は平屋、省エネ、寒冷地と、違った空気感の家を設計しました。
木組の伝統構法を守りながら、温熱環境に力を入れ
暑さ寒さを取り除いた木造建築を目指しました。
構造協力に木組みのメンバーを迎え、より一層スッキリと整理された骨組みで
住み継ぎながら、長く快適に過ごしていただけます。
住む場所、住む人によって、家は形を変えるものだなと、改めて感じた2015年でした。
(木村)
2016年02月22日 Mon
木は無垢の木が一番だと考えています。
私たちの周りに身近に生えている木は、丈夫で長持ちする優れた素材です。
木は、人の肌に馴染みやすく、触れると温かい感覚があります。また、加工しやすいので、さまざまな形をつくることができます。
私達の先人たちも、木の使いやすさに着目して木の家をつくってきたのでしょう。
建物の骨組みとなる強い木に育つためには、杉の木で60年必要と言われています。
よく知られたことですが、木は土の中から水分を吸収し、太陽のエネルギーをいただいて成長してゆきます。
その際に太陽の光を浴びて、空気中の二酸化炭素を取り込んで、酸素に変える作用があります。「光合成」という地球上の生物にとっては、大切な植物の仕事です。
木の中に閉じ込められた炭素は、製材して家に使われても、廃棄して燃やすことがなければ、ずっと固定化されて空気中に二酸化炭素を放出しません。
つまり、木の家が建っている間は、ずっと温暖化対策の役に立っているのです。
だから、家をつくる時には最低でも60年の間、次の木が育つまで使えることが、地球環境にとっても大事なことだと思います。
そこで、できるだけ長い時間を生きる家をつくりたい考えています。古民家再生などをリノベーションして長く使うことも大切です。
わたしたちは、丈夫で長持ちをする家づくりと古民家再生などのリノベーションを実現しています。
出典:有馬孝礼
2016年02月16日 Tue
ブログ | プロジェクトレポート | 阿佐ヶ谷の家
2月13日に開催した「阿佐ヶ谷の家」構造見学会。
暖かい風の吹く中、たくさんの方に見学に来ていただきました。
まずは構造見学会に先駆けて行われた、上棟式の様子を御覧ください。
一本一本の木を、職人が組んでいく姿が印象的です。
木組みの家の美しさは、構造の美しさから。
完成すると見えなくなってしまう、このような手仕事は、粋な世界です。
今回構造見学会をたくさんの見て頂く事ができて、嬉しく思っています。
皆さん「見てよかった」と言ってくださいました。
次回の見学会も、決まり次第当サイトにてお知らせいたしますので
どうぞ奮ってご参加ください。
2016年01月24日 Sun
鎌倉近代美術館が閉館になるという。近代モダニズムの建築でありながら、古都鎌倉の歴史環境に溶け込んだ名建築なのに、残念だ。
1951年開館した日本初の公共美術館。坂倉準三の設計で、多くの市民に「鎌倉近美」の愛称で長く愛された。シンプルなファサードで自己を主張しないことが、周囲の景観にもよく溶け込んでいる。
水辺にたたずむ姿は、凛とした静けさがあり、池に臨むテラスでは、水面の反射が美しく、天井を眺めるといつまでも飽きることがなく、時間を忘れることができた。
2016年01月17日 Sun
1月17日です。6434人の死者を出した阪神大震災から21年になりました。そのうち8割が圧死です。約5000人の人が、建物もしくは家具の下敷きになって亡くなりました。
建築に携わる人間とって、今日は忘れられない日です。
地震に強いと言われた、10万4906棟の家屋が全壊しました。一部損壊までを入れると、63万9686棟にも登ります。
その後、木造住宅の耐震性能が大きな課題となったことはもちろんです。
当時の仲間たちと「私家版仕様書」を書いたのは、地震被害からいかに命を守る家づくりができるかを知りたかったからです。
今日が、わたくしの家づくりの方向性を決めました。美術学部出身にもかかわらず、心から日本家屋の構造の本質を学びたいと思いました。
伝統構法と呼ばれる日本古来の家づくりには、先人たちの多くの知恵があると思ったのです。
2007年から国土交通省による、振動台実大実験にも実務者として参加させていただきました。5年間の実験で、分かったことはたくさんあります。木造住宅の特性は、めり込みと粘りと復元力です。
そこで学んだ命を守る貫や足固めは、毎回の実務に生かしています。建物が人の命を奪わない家づくりが、わたくしの使命だと考えています。
今日は忘れられない日です。阪神大震災の教訓はしっかり引き継いでいきたいと考えます。
合掌。
2016年01月12日 Tue
あけましておめでとうございます。正月気分の抜けない3連休に、二つの建築展を見に行ってきました。
ワタリウムで開催されている、ブラジルの女性建築家「リナ・ボ・バルディ展」ーブラジルが最も愛した建築家―と六本木ヒルズ 森美術館で開催されているイギリスの建築家ノーマン・フォスターの「フォスター+パートナーズ展」ー都市と建築のイノベーションーです。
ノーマン・フォスターは、サー(卿)の称号を持つ英国が世界に誇る建築家です。
わたくしが、事務所を始めたころ、フォスターの画集が3巻出版されて初期の作品が掲載されたときは、枕元に置いて毎晩眺めながら寝ました。分かりやすいイラストによるプレゼンテーションに魅せられました。スケールの大きなプロジェクトから小さな住宅まで、飽くことなく見たために画集はボロボロになりました。
今回の展覧会は、最近の作品を見る良い機会でした。本来、架構や構造のシステムの長けている建築家ですが、組織的な展開を駆使し、各国の空港など見ごたえのあるスケールでした。日本では住宅の設計も、実現されていることを初めて知りました。
2002年に、イギリスに行って実際の建物を見る機会がありましたが、全体と細部のバランスの良さに驚きました。ネジ一本にまで気を抜かない精度です。
会場が、六本木ヒルズの最上階 東京シティビューということもあって、フォスターの展示にぴったりの都市空間でした。
http://www.mori.art.museum/contents/foster_partners/
ワタリウムのリナ・ボ・バルディ展は、今回初めて知った女性建築家ですが、あのザッハに似た風貌で驚きました。
こじんまりとした展示で、第二次大戦前後の作品展でしたが、モダニズムの初期の作品とも思えない土着との融合があり、時間の流れに耐える先進性を持った建物の展示でした。スイスの建築家マリオ・ボッタ設計のワタリウムの建物に似合ったスケールで、心地よい印象でした。
http://www.watarium.co.jp/museumcontents.html
年明けから気の引き締まる二つの建築展でした。今年も例年同様、あけても暮れても建築のことをずーっと考える一年になりそうですが、よろしくお願いいたします。
2016年01月08日 Fri
ブログ | プロジェクトレポート | 阿佐ヶ谷の家
東京都杉並区阿佐ヶ谷に、木組の家が上棟しました。
壁一面の本棚と、光が差し込む吹き抜けが特徴の小さい木組みの家です。
骨組みの美しさが「き」組の家の特徴です。
構造見学会は、日本古来の耐震の工夫である
貫や足固めをじっくりご覧いただけるよい機会です。
みなさまお誘い合わせの上、ぜひお越しください。
開催日時:
2016年2月13日(土)
10:00~16:00
対象:家づくりをご検討の方・本年度「木組ゼミ」受講生
「阿佐ヶ谷の家」データ
小さくて楽しい木組の家
1F 38.21㎡ 2F 35.89㎡
延床面積 74.10㎡(22.42坪)
構造材 天竜杉・桧(手刻み)
外壁 焼杉・土壁風藁入モルタル
内壁 漆喰塗り
開口部 防火サッシ・木製玄関ドア
断熱材 高性能GW
設計:松井郁夫建築設計事務所
構造計画協力:悟工房
施工:キューブワン・ハウジング
山:天竜T.S.ドライシステム協同組合
2016年01月01日 Fri
あけましておめでとうございます。
今年も、ますます楽しい家づくりをしていきたいと思います。
2016年も、どうぞよろしくお願いします。