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2013年09月17日 Tue

職人言葉

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 私の妻の実家は、不思議な雰囲気の家です。和風の家なのにモダンな感覚があります。50年前の家なのですが、大工棟梁で建築家になった人が設計した家です。

 義理の親父がシナリオライターで、物書きでしたから、一日中家にいても、気にならない家を建ててほしいと注文したそうです。柱や梁が黒く塗ってある、桂離宮のような「黒木造り」の家です。

 はじめてその家の玄関に立った時は、妙に懐かしい気になりました。昔から知っているような空間で、ふるさとの町家に似ていました。違いは、モダンで粋なしつらえが随所にあったことです。和風なのにバタ臭いのです。

 ちょうど都市計画と建築のはざまで悩んでいた頃でしたから、この家を設計した人のところへ行きたいと思いました。26歳の時です。

 義理の親父の口利きで、何とか入れてもらったのはいいのですが、気難しい人で、気分屋さんでした。しかし、そこは元大工ですから、毎晩一緒にお酒を飲みながら、いろいろ教えてもらいました。飲まないと話してくれないのです。

 当時その事務所での担当は、コンクリート造の住宅でした。コンクリートも面白いのですが、木組は初心者には難しいからといって、教えてくれませんでした、時折、外弟子の方が来て図面を置いてゆきました。

 そこで、打ち合わせに来る職人たちの話を盗み聞きしていました。職人言葉は難しいです。隣の部屋で聞き耳を立てながら、わからない言葉があると、図面の隅にメモして、その晩にお酒を注ぎに行って聞き出します。

 ところが、その説明の中に、また分からない言葉が出てきます。こちらも酔っ払いながら聞いて、帰りの電車の中でまたメモをとって、次の日に聞くということを毎日のように繰り返しました。

 おかげさまで、独立して一軒目の仕事から大工言葉で話すことができました。職人と仲良くなることができたのも、言葉が通じたからかもしれません。むかしから、「大工と話すときは大工言葉で話せ」と言ったそうです。大学では、職人の言葉は教わらないですから。「門前の小僧習わぬ経を読み」ということでしょうか。