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2021年06月29日 Tue

コラム: 木組の真実

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木造住宅の多くがプレカットで軸組をつくることになって、骨格である柱・梁を見せなくなりました。

プレカットは、金物で接合しなければ成り立たない「金物工法」です。プレカットの家は、接合部に金物が見えると美しくないので、隠します。なので「大壁工法」です。

大壁にした途端、柱・梁の組み方を美しく見せる工夫の必要がなくなるので、多くの設計者の興味は壁の仕上げや家具などに集中します。建築雑誌や写真集が表面の細部のデザインに多くのページを割く由縁です。

一方「木組」は、金物に頼らないで、木と木を組み上げる「伝統構法」です。柱や梁が全て見えますから骨組みを美しく整える必要があります。なので「真壁工法」が当たり前です。

最近では、ほとんどの設計者が「難しいからやらない」という「真壁工法」は、日本の本来の建築物です。湿度の高い日本では壁の中に木材は入れませんでした。

「真壁工法」で建物を設計する場合は、「大壁工法」とアプローチが違います。「真壁工法」では、まず柱の配置が大切です。また柱につながる梁の掛け方も同時に考えなければいけません。柱の配置は、梁組みで決まります。さらに、梁組は美しく架けなければいけません。ここが難しいと言われるのでしょう。しかし、少し原理がわかれば、楽しい設計作業です。もちろん敷地の形状と建主の要望を満足させることを同時に考えることになります。

金物に頼らないので、梁を掛けるときには木と木の接合部である「継手・仕口」を知る必要があります。この「継手・仕口」も難しいと言われていますが、一軒の住宅だと12種類程度の接合部と適材適所を覚えれば誰でもできます。

架構は「軸組構法」という軸状の木材の組み合わせで出来ています。この軸状の木材を握手をするように長手方向に組むのが「継手」です。一方、腕を掴むような交差する方向に組むのが「仕口」です。組手を加工すれば、金物がなくても堅牢な木組の「接合部」が出来ます。

木組の家の特徴は、木の本来柔らかい母材を利用して、接合部が揺らされると「めり込み」と「摩擦」で「復元力」を発揮して「粘り強い」「しなやかな」骨格をつくることにあります。繰り返しの揺れにも対応するのです。

超高層ビルの耐震構造と同じ考え方です。

金物は強固ですが、木より強く母材を壊すので要注意です。むかしから大工たちは「豆腐を針金で釣ってはいけない」といいます。

木は人にとって親和性のある素材ですから、組み上がった木組は安心感と安らぎをもたらします。人間工学的にも、快適で安全な高さや広さは、ヒューマンスケールと呼ばれる「人間尺度」が決め手になります。日本の家には、むかしから畳の寸法や柱の寸法に「人間尺度」が使われています。座敷のある和風住宅が落ち着く理由です。尺寸と言われている寸法体系は、人の体の寸法から決められました。

また、柱で支える「軸組構法」の木組の家は、「壁構法」にはない開放感を味わえます。柱や梁を抜ける視線が空間の広がりをつくるからです。室内に柱や梁が現しでインテリアにもなり、家具類を置かなくても美しい室内のデザインが完成します。また、外部の庭や街に開かれた空間が魅力です。木と木の組手には、まだまだ工夫の余地があり、美しい納まりが可能です。

木組の納まりこそ、「用」の「美」が実現できる世界です。ディテールの美しさや工夫を競って特集されるべき真実です。