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2021年06月14日 Mon

コラム: 軸組工法の真実

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近頃の木造住宅の傾向として、大壁という柱の見えない構法で自由な間取りをつくる家が一般的になってきました。

大壁の家は、架構をすべて隠してしまうので、柱の位置や梁の配置を考えずにつくることができます。

壁を建てることで家の構造を支えますから、壁式構法です。耐力的に必要な壁を残せば、好きなところに窓を開け、金物で補強して、見苦しいところは隠してしまえます。

一方、日本家屋は柱・梁がすべて見える真壁構造の軸組工法と呼ばれています。

柱・梁の軸部だけで空間を造るので開放的な空間が可能です。

湿度の高い日本では壁の中に木を入れると、構造材が蒸れるので避けたのです。

真壁は柱と柱の間に壁が入ることによって、線と面がつくり出す構成が室内外をつくり、家具を置かずに、造り込まない部屋も充分美しい空間が成立します。

ここで柱・梁を見せるためには、軸組と間取りを合致させる必要があります。

合理的で美しい架構の木の家は、柱の配置や梁の組み方を整理したシンプルな軸組が命です。

「木造は軸組だ!」と言い切ったのは、現代棟梁と呼ばれ文化財の改修や「民家型構法」を実践した故・田中文男棟梁です。私も若い頃、薫陶を受けました。

建築史家・伊藤ていじは「民家の構造はコンクリートの建物に引き継がれる」と述べました。「民家の柱や梁は自由に動かすことができない。なぜなら、まわりの構造がそれを許さないから」と、軸組の重要性を指摘しました。

ここまで書くと、民家のように丈夫な家をつくるには、間取りには架構の制約があり、骨組への理解が必須なことがわかります。

大壁のように間仕切りや壁の並べ替えによって幾とおりもプランのできる自由度の高い「パズルゲーム」は出来ないのです。

むしろ間取りの自由度は、普遍性のある丈夫な架構の成立よって生まれるのであって、柱・梁の制約なしで架構を間取りに合わせるパズルのような設計は、耐震性や耐風性に対して危険で、やってはいけないことではないでしょうか。

建築基準法の「目的」には「国民の生命と健康の保護」が第一条にあります。

木造住宅では、命に関わる骨格を最優先に考えることが大切だということです。